SWIM WITH MANATEE スイム・ウィズ・マナティー

「スイム・ウィズ・マナティー」

1999年1月、私はフロリダ州クリスタルリバーを訪れ、
野生のマナティーのいる川でシュノーケリングをしました。
これはその日の夜書き残しておいた日記に、多少の追加・修正を加えたレポートです。

野生のマナティーと泳げる場所

アメリカ・フロリダ半島クリスタルリバー。
ここは、野生のマナティーたちが集まることで世界的に知られています。

クリスタルリバーの川底には、温かい地下水が吹き出すポイントがところどころにあり、川の温度が常に20度前後に保たれています。
普段は大西洋で生活しているマナティーたちが、暖を求めて冬の間だけクリスタルリバーにやってくるのです。

1999年、私は友人と二人で、クリスタルリバーで野生のマナティーと泳ぐツアー「スイム・ウィズ・マナティー(H.I.S主催)」に参加しました。

オーランドからクリスタルリバーへ

ツアーはオーランドからマイクロバスで出発し、クリスタルリバーまでは約1時間半の距離です。
集合は朝5:30、前日にディズニーワールドで遊びまくった身には少々きつかったのですが、これからマナティーに会えると思えば、そんなことはまったく気になりませんでした。

クリスタルリバーまでの道中は、アメリカならではの、広大な草原の景色がひたすら続きます。
途中マクドナルドで朝食をとり、ダイビングショップに立ち寄って、ウェットスーツとシュノーケルセットをレンタルしました。
クリスタルリバー到着後、ウェットスーツに着替えてボートに乗り込み、マナティーの保護区へと出発します。
ボートには10人位のツアー客が乗り合い、私達以外に日本人はいません。

フロリダは冬でも基本的に暖かいようなのですが、このときはまだ朝早かったせいか、かなり寒かったです。
クリスタルリバーから立ちのぼる水蒸気は、霧となって川岸の森を覆い、幻想的な景色が辺りに広がっていました。
川面のところどころからは、ポコポコと小さな泡が吹き出しています。
おそらくそれらが、温かい地下水が吹き出るポイントなのでしょう。

  • マナティー

    ボートが出発する船着き場付近。川沿いに普通の民家っぽい家があったりして、わりと町中です。

  • 美ら海水族館

    マナティー保護区に近づけば近づくほど、人の生活の気配はなくなり、美しい森の風景が広がります。

いよいよマナティー保護区へ

しばらく進むと、ボートのスピードが突然遅くなりました。
あたりを見ると、「IDLE SPEED(「スピードゆっくり」)」と書かれた看板が立っています。
いよいよマナティーの保護区(manatee sanctuary)に入ってきたようです。

ようやく上りはじめた太陽の光が、水面にまばゆく反射します。
光のまぶしさに目を背けていると、ボートの運転手のおじさんがエンジンを止め、いかりを下ろしました。
どうやらマナティーとの接触ポイントに到着したようです。

早速マナティーがいるか見てみようと、キャビンの外へ出てみると、探すまでもなく、何頭もの巨大なマナティーがボートの周りを泳いでいました。

マナティーだ!!

私と同行の友人は大騒ぎし、他のお客さん達に笑われてしまいました。
騒いでいるのは私達だけ。
後で考えてみれば、野生の動物が生活する場所で大騒ぎするのはかなりのマナー違反。
他のお客さん達は、ちゃんとわきまえていたんだと思います。
でも、なんでみんなそんなに冷静でいられるの!?本物のマナティーたいるんだよ!

マナティーと泳ぐ

シュノーケルセットを装着し、早速川の中へ下りてみます。
水は温かく、足のつく深さだったので、泳ぎが苦手な私は一安心。
フィンのついた足でよろめきながら立っていると、マナティーが「遊んで」と言わんばかりにドン、ドンとぶつかってきました。
私は転倒しそうになり、もがいて足をつってその場から動けなくなってしまいました。もう!危ないよ、マナティー!

マナティーの大きさと人なつこさに、私たちは歓声をあげて大騒ぎ。
でもマナティーたちは、そんな騒ぎ声も、私の鈍臭い挙動不審な動きも、全く怖がっている様子はありません。
のんびりと川底の藻を食べたり、マナティーたち同士で寄り添ったりして泳いでいます。
大きな体はその緩慢な動きのせいで藻に覆われており、背中をなでてみるとヌルヌルしています。
藻がかゆいのか、他のお客さんに大きなお腹を向けて、気持ち良さそうにお腹を掻いてもらっているマナティーもいました。

気がつくと、数十頭ものマナティーたちが集まってきていて、それぞれがそれぞれにユニークな行動をとっています。

水面からちょこっと出した鼻をボートにフンフン押し付けて、ボートの端から端まで、まるで点検してるみたいゆっくり移動しているマナティー。
ロープをくわえたまま微動だにしないマナティー。
マナティーの鼻は水中ではふさがっているのですが、時々ゆっくりと鼻だけ水中から出して、ぷしゅーっと息を吐き水しぶきをあげます。
一頭がそれをやると、あくびの伝染のように他のマナティーたちもそれを真似をしていました。

  • マナティー

    マナティと水中でご対面。

  • 美ら海水族館

    マナティーはロープが好き。くわえたり、歯磨きしたり…

別れのとき

そろそろマナティーたちとの時間も終わりに近付いていたので、私は川から上がり、ボートの上からマナティーたちを眺めることにしました。

もうすっかり陽は昇り、空は晴れ渡っています。
クリスタルリバーの水はその名の通り透き通り、それまではぼんやりとしか見えなかったマナティーたちの泳ぐ姿が、はっきりと見えました。
私達のボートのそばにいかりを下ろしていた別のボートには、4、5頭のマナティーが群がり、皆ロープをくわえたまま動きません。
親子は寄り添いあい、2頭同時に鼻を水面から出して水しぶきをあげています。

マナティーたちは、ただ眺めているだけで、ほのぼのとした温かい気持ちにさせてくれる、本当に不思議な動物です。
そしてここは、この素敵なマナティーたちのサンクチュアリ(保護区という意味だけど「聖域」という意味もある)なのです。

やがてボートは出発し、私達は「聖域」を後にします。
名残惜しかったけど、やはり私たち人間がこんな場所に長居するべきではないのだ、と感じました。

自然を愛する人間が自然の世界に足を踏み入れたとき、それを破壊してしまうことにつながることがしばしばあります。
それはとても悲しいジレンマです。
今はマナティー保護の対策がしっかりとられていて、ボートの運転も細心の注意が払われていますが、そうなる以前は、私のようなマナティー好きがここにやってきて、乗っていたボートでたくさんのマナティーを傷つけていたのです。
何も考えずにただマナティーに会いたくてここへやってきたのですが、帰り道は少々複雑な心境でした。

心優しいマナティーたちが幸せの時間を過ごすサンクチュアリ。
このすばらしい聖域が、永久に続いていきますように。

マナティー

クリスタルリバー

クリスタル・リバー(アメリカ・タンパ)

野生のマナティーとシュノーケリングが楽しめるスポットです。泳げるシーズンは11~3月。専用のツアーに申し込んで行くのをおすすめします。

>Map & Info

マナティーと泳ぐツアーを申し込めるサイト

各旅行会社やダイビングショップがツアーを企画しています。でも、英語が出来る方は、現地の代理店で申し込む方が、日本語通訳がつかない分安くなると思います。

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